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奈良家庭裁判所葛城支部 平成12年(少ハ)1号 決定

本人 M・I(昭和54.8.4生)

主文

本件申請を却下する。

理由

第1本件申請の趣旨及び理由

1  事件本人(以下、「本人」という。)は、平成10年11月25日奈良家庭裁判所葛城支部において病気治療を兼ねて医療少年院送致の決定を受け、その後病気が治癒したため中等少年院である奈良少年院に移送され、近畿地方更生保護委員会の許可を得て、平成12年1月18日同少年院を仮退院して引き続き奈良保護観察所の保護観察下にある。その間、本人は、奈良少年院側の収容継続申請により、奈良家庭裁判所葛城支部において、平成11年11月8日、成人後平成12年5月24日を限度として少年院に継続して収容することができる旨の決定がなされている。したがって、本人の仮退院満了日は平成12年5月24日である。

2  ところで、本人は、右仮退院後間もなく、要旨次のような犯行を犯し、葛城簡易裁判所で平成12年3月10日罰金10万円の刑事処分を受けるに至った。「業務その他正当な理由による場合でないのに、平成12年3月2日午前9時7分ころ、奈良県香芝市○○×丁目×番××号先路上において、金属で作られ、かつ、日本刀に著しく類似する形態を有する模造刀剣(刄渡り相当部分約71センチメートル)一振を自動二輪車に積載して携帯した。」というものである。

3  本人は、すでに右事件について刑事処分を受けているとはいえ、同行為は、明らかに、仮退院の条件である犯罪者予防更生法34条2項の一般遵守事項「善行を保持すること」に反するだけでなく、近畿地方更生保護委員会が、同法31条3項に基づき定めた特別遵守事項である「刄物など危険な物をみだりに持ち歩かないこと」にも違反している。

本人は、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反の非行により少年院送致の決定を受け、約1年2ヶ月間の矯正教育を経て仮退院後保護観察を受けておりながら、また、すでに成人に達しており法律を遵守して行動すべき立場にあることを十分自覚すべきであるにもかかわらず、本件犯行に及んでおり、しかも、危険な物を持ち歩くことへの抵抗感がいまだ乏しい。

本人の性格、行状、環境、保護者の指導力等にかんがみると今後保護観察処遇を強化しても、社会内処遇で改善更生を図ることは困難であり、将来傷害などの犯罪を反復するおそれがあるため、少年院に戻して収容し、再教育する必要がある、というものである。

第2当裁判所の判断

そこで、一件記録を調査して検討する。

1  まず、本人が、当裁判所で殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反の非行により医療少年院送致決定を受け、その後移送された奈良少年院で当裁判所の収容継続決定を経て少年院を仮退院するに至った経過は上記申請のとおりである。

また、少年院仮退院後、本件犯行に及び、葛城簡易裁判所において平成12年3月10日罰金10万円の刑事処分を受けた事実もそのとおり認めることができる。したがって、本人は、仮退院にあたって法律上定められている一般遵守事項に違反し、また、管轄の近畿地方更生保護委員会が特に定めて告知した特別遵守事項にも違反していることは明らかである。

そうすると、本件戻し収容の申請は一応理由があると認めざるを得ない。

2  しかし、家庭裁判所調査官の調査の結果等によると、本人は、仮退院後曲がりなりにも就職し、保護司宅を訪問し自制した生活をしていた状況が伺える。

今回の犯行は、前掲少年院送致時の非行と明らかに性質を異にし、地元仲間に対して、かっこよさを顕示するための手段であったと認めることができる。

本人自身本件模造刀の携帯と前回の包丁所持との類似する危険性について思い至らなかったようである。浅はかであるといえばそのとおりであり、本人の未熟さを窺うことはできる。しかし、今回の犯行が直ちに傷害等の犯行に発展する恐れがあるとは言い難い。加えて、調査・審判を通じて本件犯行の危険性は理解できたと思料する。

本件で何より考えなければならないことは、少年院では、収容継続の決定まで経て、十分な矯正教育をしてきたはずであり、すでに成人として処遇すべき時期に来ているという点である。

本人の犯罪傾向や資質上の問題点は少年院仮退院時とほとんど変わっていないといえる。本件犯罪については、すでに刑事処分を受けており、本件で更に戻し収容まですることはいたずらに不満を募らせるだけでなく、更生の意欲を削ぐ結果ともなりかねない。これ以上の少年院収容は、かえって本人の社会適応力を低下させ、非行感染、否定的自我像の強化を招く恐れがある。

幸い、今回は両親が本人少年を手元に置いて、監督・教育する旨強い決意を示している。

仮退院後の本件戻し収容の申請、及びその審理のための観護措置決定及び調査・審判は本人の更生のため十分意義のあったものと考える。

第3結論

以上によれば、現時点において本人を戻し収容する必要性は存在しないといえるから、本件申請を却下することとし、犯罪者予防更生法43条1項、少年院法11条3項、少年審判規則55条により主文のとおり決定する。

(裁判官 正木勝彦)

〔参考〕戻し収容申請書

戻し収容申請書

平成12年3月16日

奈良家庭裁判所葛城支部殿

近畿地方更生保護委員会

次の者は、少年院を仮退院後奈良保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定により申請する。

1 氏名等

氏名・年齢  M・I(昭和54年8月4日生)

本籍     大阪市城東区○○×丁目××番地

住所     (居住すべき住居)奈良県香芝市○□×丁目××番××号

(現在地)奈良少年鑑別所(留置中)

職業     無職

2 保護者

氏名・年齢  M・Y子(昭和27年3月16日生)

住居     奈良県香芝市○□×丁目××番××号

職業     無職

3 本件保護処分

決定裁判所  奈良家庭裁判所葛城支部

決定の日   平成10年11月25日

4 仮退院に関する事項

許可委員会  近畿地方更生保護委員会

許可決定の日 平成11年12月24日

仮退院施設  奈良少年院

仮退院の日  平成12年1月18日

5 保護観察の経過及び成績の推移

別紙1のとおり

6 申請の理由

別紙2のとおり

7 必要とする収容期間

1年間

8 参考事項

添付書類           2通〈省略〉

質問調書(甲)        1通〈省略〉

質問調書(乙)        1通〈省略〉

引致状謄本          1通〈省略〉

少年院仮退院許可決定書写し  1通〈省略〉

誓約書(甲)写し       1通〈省略〉

審理開始決定書(甲)謄本   1通〈省略〉

少年調査記録返還

別紙1

1 本人は、平成12年1月18日奈良少年院を仮退院し、同日実母が出迎え奈良保護観察所に出頭し、保護観察官から保護観察や遵守事項の説明を受け、前記居住すべき住居(指定帰住地)に帰住し、奈良保護観察所の保護観察下に入った。

同日実母とともに担当保護司(以下「担当者」という。)のもとを訪ね(以下「来訪」という。)、担当者から毎月の来訪を欠かさないこと、遵守事項を遵守し規律ある生活を行うことなどの指導を受けた。

2 同年同月31日来訪し「仕事にはまだついていないが、少年院に入院前に勤務していた○○総業に明日からいくつもりである。原付免許を取得した、友人と再会した」と述べ、担当者は就職が決まったら連絡することなどを指導した。

3 同年2月16日仕事帰りに来訪し「知人の世話で○□工業で鉄骨工として働いている」と述べた。同月29日来訪し「仕事先を変ろうと思っている、本日は仕事を休んで友人の許へ行っていた」と述べたので、担当者は仕事を継続すること、規律ある生活をすることなどについて指導した。

4 同年3月2日奈良県○△警察署から本人を銃砲刀剣類所持等取締法違反の疑いにより現行犯逮捕した旨、担当の保護観察官(以下「主任官」という。)に電話連絡があった。すぐに、主任官が実母に電話をしたが、本人の逮捕についてはまだ知らなかった。

5 同月9日主任官が奈良県○□警察署において本人に対して質問調査を行った。同日、奈良家庭裁判所に引致状を請求し、その発付を受けた。

6 同月10日葛城簡易裁判所において罰金10万円及び再犯にかかる模造刀剣一振の没取の略式命令を受けた本人を、午後3時33分奈良保護観察所に引致した。

7 同日同庁は当地方更生保護委員会に引致結果を報告し、これを受け、当地方更生保護委員会第3部において、同7時12分戻し収容の申請をするための審理を開始することを決定した。同7時25分、主任官が本人に審理開始の決定を告知するとともに、留置する旨を告げ、同7時40分、奈良少年鑑別所への留置を完了した。

8 保護観察の成績は当初から「普通」である。

別紙2

本人は、当地方更生保護委員会の決定により、平成12年1月18日奈良少年院から仮退院を許され、平成12年5月24日を仮退院期間満了日として、現在奈良保護観察所の保護観察下にある。

本人は、先に仮退院に際して、犯罪者予防更生法第34条第2項所定の事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項の規定に基づき当地方更生保護委員会が定めた事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したものであるが、平成12年3月10日付けで奈良保護観察所長から戻し収容の申出がなされたので、関係書類に基づき審理したところ、下記1記載のとおり遵守事項違反の事実が認められ、下記2記載のとおり、更に保護観察を継続しても、本人の更生を図ることは困難であり、仮退院後の行状、その他諸般の情状を考慮の上、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定に基づき申請する。

1 遵守事項違反の事実

本人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、平成12年3月2日午前9時7分ころ、奈良県香芝市○○×丁目×番××号先路上において、金属で作られ、かつ、日本刀に著しく類似する形態を有する模造刀剣(刄渡り相当部分約71センチメートル)一振を自動二輪車に積載して携帯した(一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」、特別遵守事項第4号「刃物など危険なものをみだりに持ち歩かないこと。」に違反)ものである。

2 戻し収容を必要とする理由

本人は、平成12年1月18日に奈良少年院を仮退院し、同日指定帰住地である奈良県香芝市○○×丁目××番××号に帰住し、以後実父母のもとで生活し就業していたが、仮退院以後わずか2月にも満たないうちに、模造刀剣の携帯により本件遵守事項違反を惹起し、さらに、運転免許を取得していないにもかかわらず、自動二輪車を友人から購入していたものである。これらの行為についてはいずれも保護者から注意を受けていたにもかかわらずそれに反して行われたものであり、本人の自己中心的、自己顕示的な性格が窺え、場合によっては傷害など他者を傷つける危険な行為に結びつくおそれが強いことへの認識に著しく欠けている。

本人は、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反の非行により、少年院送致の決定を受け、約1年2ヶ月間の矯正教育を経て、仮退院後保護観察を受けておりながら、また、すでに成人に達しており法律を遵守して行動すべき立場にあることを十分自覚すべきであるにもかかわらず、上記の行為に及んでおり、特に模造刀剣の携帯については、危険な物を持ち歩くことへの抵抗感がいまだ乏しく、その行為が、銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪に該当し、平成12年3月10日葛城簡易裁判所から罰金10万円の略式命令を受けたことを考慮しても、このまま保護観察を継続し本人の改善更生を図るには不十分と言わざるを得ず、更に両親も、注意を受入れようとせず、指導にも従わない本人の行動に対して再犯を危惧し不安を抱き、施設収容もやむを得ないと考えている。

以後、本人の性格、行状、環境、保護者の指導力等にかんがみると、今後保護観察処遇を強化しても社会内処遇において改善更生を図ることは困難であり、将来傷害などの犯罪を反復するおそれがあるため、少年院に戻して収容し、再び矯正教育を実施することにより、規範意識を身に付けさせ、社会性の涵養を図ることが必要である。

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